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2008/04/21

『アーティスト症候群―アートと職人、クリエイターと芸能人』:大野 左紀子著

『アーティスト症候群―アートと職人、クリエイターと芸能人』:大野 左紀子著(2008.02/明治書院)

東京藝術大学の彫刻科を卒業し長らく創作活動をしていた,元「アーティスト」による,いってみれば「世の中に蔓延するイケてそうなアートっぽい空気」を皮肉っぽくKYする一冊。

この本のことを語る前に,というか,この本の中でも登場するTV東京系の番組「誰でもピカソ」を見ていたら,日本の若手アーティストの作品を,海外の画商が買い漁っているシーンが放映されていた。中には,完成作品ではなく,一歩間違えば美大か高校の美術室で仲間どうしが気ままに書き散らかしたみたいな作業中の作品に買い手がついていた。おまけに海外の画商から言わせれば,日本で購入する現代アートの作品は,相場的に安いらしい。

また,いっぽうで,村上隆の作品が2億円で落札されるシーンもあり,あまりの高値に,本人が一番驚く様子だった。それら日本の現代アートを買うのはアメリカの金持ちだったりするが,様々な問題も金さえあれば,たいてい解決できるアメリカの社会を「金次第で単純」と揶揄する村上隆の苦笑いが印象的だった。

少し昔の「バブル経済」の時は世界のアートを日本の「成金」が買い漁っていたのに,今では「日本の貧乏人アーティスト」(全員貧乏ではないと思うけど)の作品を海外の画商が買っていく時代にシフトした。世界的に「日本の文化」が,ちょっと敏感な人達から注目されることは,「Jap」や「Nip」と蔑視されるよりは悪い話じゃない。

一頃,日本の文化は没個性で横並びなんて言われていたが,裏をかえせば「赤信号みんなで渡れば怖くない」的な気分にもなれる。そんなファナティックな感情が,攻撃方面に作用した結果が太平洋戦争だったのかもしれないし,現代のような平和ボケ?した世の中なので「自称アーティスト&クリエイター増殖中」なのかもしれない。

いずれにせよ,かつて西洋から輸入したような「現代アート=気難しいコンセプトの解読」という趣は,ゼロとはいわなくても,煙たがる傾向であることは間違いない。貸ギャラリーに足を運んで「インスタレーション」とカテゴライズされた作品を制作した作家にコンセプトを訊ねても,「見てくださった人が各々で何かを感じてくださったら嬉しいです」なんて返事が多かったり・・・。

さて,『アーティスト症候群―アートと職人、クリエイターと芸能人』の中で,著者が声高に主張している事。それは・・・

<「アート」というものは、既成概念をうちやぶって、つねに先端をゆくもの>らしい。

その一文を,テキストとして額面どおりに受け取れば,その中味がどうであれ,日本のアートが世界の画商にとって,これまでの藝術的<既成概念をうちやぶって、つねに先端をゆくもの>であるとも言える。

著者が言いたかった事は,アートの再定義の必要性云々ではなく,端的に言えば「存在の耐えられない日本国内<現代アート>の軽さ」ということではないでしょうか? あるいは,「カワイイ」という言葉がもてはやされがちな精神的ネオテニー化著しい日本社会へのいらだち?! 

そうはいっても,アーティストの需要は職人以上に少なく,とまれ職人になるには,辛い修行がある。じゃあアーティストでもなければ職人でもない,第三のモノ作り願望所持者が目指すものは「クリエイター」ということで・・・ここまでくると,名乗ったもの勝ちのところもある。いや,それだけでなく,短時間で「クリエイター気分」になる文明の利器(PCソフト,デジカメ,プリンター...etc)は日々誕生している。田中康夫の「なんとなくクリスタル」ではないけど「なんとなくクリエイター」気分なら,気軽に味わえる現代。

それを真っ先に実践したのが藤井フミヤの「フミヤート」でしょう。当時は,Macというパソコンでしか使えないグラフィックソフトが大半でした。なので,そのソフトの使い方やエフェクトを知らない,大半の藤井フミヤの名前や存在なら知っている人からすれば「すごーいアート」だったでしょう。けれども,作品そのもののオリジナリティーというよりは,画像ソフトのエフェクトを披露した世界だったと感じた点では,著者と私と意見が一致したことだけは,最後に記しておきます。



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